サンプルページ(PDF)
・
概観
概要
農業は21世紀においても,引き続き持続可能な開発と貧困削減の基本的な手段である.発展途上国の貧困層(1日2ドル未満の生活をしている人々は21億人,同1ドル未満は8億8,000万人)は4人に3人の割合で農村部に居住しており,そのほとんどが生計を農業に依存している.貧困層の居住地と特技を所与とすれば,2015年までに貧困と飢餓を半減するというミレニアム開発目標を達成し,その後も数十年間にわたって貧困と飢餓の削減を継続するためには,農業の振興は至上命題である.農業だけでは貧困の大幅な削減を達成するのに不十分であろうが,ほとんどの途上国にとって農業は有効な開発戦略の基本的要素といえよう.
『世界開発報告』が農業に焦点を当てたのは25年も昔のことであり,それ以降,新しい機会やチャレンジがまったく異なる状況下で出現してきていることを考慮に入れて,農業をどのように開発のために活用できるかについて再検討する時期がきている.そのために,「開発のための農業」という副題の本報告書では,次の3つの重要な問題に取り組んでいる.
・農業は開発のために何ができるか? 農業は多数の国で成長のベースになって貧困を削減してきているが,政府や援助国が農業に関して政策怠慢の歳月を逆転させて,過少投資や誤った投資を是正すれば,もっと多くの諸国が利益を享受できるだろう.
・開発のために農業を活用するに当たって有効な手段は何か? これには貧困家計の資産を増やすこと,小自作農(および農業全般)の生産性を高めること,農村部の非農業経済に貧困層がつかみ取れる機会を創出することなどが含まれる.
・開発のための農業という課題はどうしたらうまく実施できるか? 各国の経済・社会状況に適した政策や意思決定プロセスを設計すること,政治的支持を動員すること,農業の統治を改善することが重要である.
本年度の報告書は世界銀行の『世界開発報告』として第30号に当たる.
目次
序文
謝辞
略語およびデータ注
概観
農業は開発のために何ができるか?
開発のために農業を活用するのに有効な手段は何か?
開発のための農業という課題はどうしたらもっともうまく実施できるか?
PART I
農業は開発のために何ができるか?
1 3 つのタイプの農業世界における成長と貧困削減
構造的な転換
3 つのタイプの農業世界と開発
農業の開発にかかわる潜在力はフル活用されていない
農業政策の政治経済学
開発にかかわる農業の新たな役割
フォーカスA 農村部の貧困減少が貧困削減全体の重要な要因となっている
2 農業のパフォーマンス,多様性,不確実性
途上国の生産性上昇が農業のグローバルな成功を牽引
地域別・国別にみると成長は不均一
パフォーマンスの相違は基本的条件の相違を反映
多角化を通じた新しい農業の機会
将来を考える視点:チャレンジへの対応と不確実性の増大
結論――生産のチャレンジが続く
フォーカスB バイオ燃料―有望であるがリスクもある
3 農村部の家計と貧困脱却の道
農村部が貧困を脱するための3 つの補完的な道:農業,労働,移住
農村家計の所得戦略は多種多様
農村部の職業と収入源
市場や政府が失敗している際の家計の行動:見かけによらず合理的
農村家計の資産ポジション:少なくてしかも不平等
リスクの蔓延と高価な対応
競争という小自作農のチャレンジ
結論
フォーカスC 農業生産と食料安定確保の関連
PART II
開発のために農業を活用するに当たって有効な手段は何か?
4 貿易,価格,補助金に関する政策を改革する
先進国における農業の保護と補助金
途上国における農業に対する課税
貿易自由化に伴う利益のシミュレーション
潜在的利益を実現する余地
一時的な補助
長期的な発展のための公共投資
結論
5 農業を市場化する
主食作物:商品取引とリスク管理を改善
伝統的なバルク輸出品:国際競争力を維持
高付加価値の都市部市場:生産者を近代的な供給チェーンに結びつける
高付加価値輸出品:商品基準の充足
結論
フォーカスD 開発のための農業関連産業
6 制度的革新を通じて小自作農の競争力を高める
確実な権利と資源再配分のための土地政策
小自作農向けの金融サービス
リスクを管理する保険
効率的な投入物市場を発展させる
バリュー・チェーンやグローバル化というなかでの生産者組織
制度的革新――依然として進行中
7 科学技術を通じて革新する
遺伝子改良は大成功であったが,すべての分野についてではない
管理とシステムの技術は遺伝子改良を補完する必要がある
R&D 投資を増加する
R&D システムの効率性と有効性を高めるための制度的な取り決め
既存技術をうまく使う:エクステンションとICT 革新
前進する
フォーカスE 遺伝子組み換え作物の利益を貧困層のために確保する
8 農業システムを環境的に持続可能なものにする
資源劣化の牽引役
農業の水管理を改善
緑の革命を活性化
集約的な家畜システムを管理
恵まれない地域の劣化を逆転
環境サービスに対する支払い
結論
フォーカスF 農業における気候変動に関する適応策と軽減策
9 農業を超える
農村部の雇用:気が遠くなるようなチャレンジ
農業の賃金雇用
農村部における非農業雇用の増加
農村労働市場における賃金・所得
労働供給:移住と都市経済
学校教育,訓練,労働市場への移行
脆弱性を削減するためにセーフティネットを提供
農村部の労働市場と移住に関して最後の一言:政策への関心の必要性である
フォーカスG 農村開発のための教育とスキル
フォーカスH 農業と健康の双方向的な関係
PART III
開発のための農業という課題はどうしたらうまく実施できるか?
10 3 つのタイプの農業世界について各国の課題が明確になってきている
新しい機会とチャレンジ
アプローチの提言
農業ベース国――成長の加速,貧困削減,食料安定確保
転換国――農村部と都市部の所得格差と農村部の貧困を削減する
都市化国――小自作農を新しい食料市場に結びつけて優良な職を提供
政治的,行政的,財務的な実現可能性
政策ジレンマを認識する
11 地方レベルからグローバル・レベルに至るまで統治を強化する
役割の変化:国家,公共部門,市民社会
農業政策のプロセス
政策実施を改善するための統治改革
分権化と地方統治
コミュニティ主導型開発(CDD)
農業プログラムにかかわる援助の有効性
グローバルな課題に関する進捗状況
農業のために統治の改善について前進する
参考文献についての注
注
参考文献
主要指標
主要農業・農村指標
表A.1. 農業・農村部門指標
表A.2. 農業政策指標
表A.3. 農業投入物・環境
表A.4. 農業産出物・貿易
テクニカル・ノート
主要世界開発指標
序論
地域・所得による国の分類
表1. 主要開発指標
表2. 貧困
表3. ミレニアム開発目標:貧困の撲滅と生活の向上
表4. 経済活動
表5. 貿易・援助・金融
表6. そのた経済圏の主要指標
テクニカル・ノート
訳者紹介
田村 勝省
1947年生まれ。東京外国語大学および東京都立大学卒業。
旧・東京銀行で調査部,ロンドン支店,ニューヨーク支店などを経て,
現在は関東学園大学経済学部教授,翻訳家。
主な訳書に,『新しい金融秩序』(日本経済新聞,2004年),
『ウォール街 欺瞞の血筋』(東洋経済新報社,2005年),
『サッカーで燃える国 野球で儲ける国』(ダイヤモンド社,2006),
『グーテンベルクの時代』(原書房,2006 年),
『ドルはどこへ行くのか』(春秋社,2007 年),
『より高度の知識経済化で一層の発展をめざす日本』(一灯舎,2007 年)
などがある。