世界開発報告2024 中所得国の罠

更新日:2025/07/29

世界開発報告2024

中所得国の罠

世界銀行 編著

田村 勝省 訳

2025年8月 発行

定価 7,000円+税

ISBN:978-4-907600-85-3

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・  序文、目次、概観

概要

中所得国は時間と競争している.中所得国の多くは1990 年代以降,所得の低い状態から抜け出し,極度の貧困を根絶することに向けて,うまくやってきている.そしてこのことは,過去30 年間は発展にとって素晴らしい時期であったという認識につながっている.しかし,1 人当たり所得が1,100 – 14,000 ドルである100 カ国を超える諸国の望みは次世代の間に高所得の地位に到達することである.この目標に照らして評価すると,それらの諸国の実績は落胆させられる.1970 年代以降,中位の中所得国の1 人当たり所得は,アメリカ合衆国のレベルの10 分の1 以下で停滞している.住人の高齢化,保護主義の高まり,そしてエネルギー転換を加速することへの圧力の高まりなどによって,今日の中所得国はかつてないほどの難題に直面している.向かい風が強くなる中で,先進国になるためには,中所得国は奇跡を起こす必要があるだろう.

1950 年代以降における開発の経験と経済分析の進歩に依拠して,世界開発報告2024 は,開発途上国が「中所得国の罠」を回避するための経路を特定している.本報告書は,中所得の水準にある諸国にとって,1つではなく2つの移行を成し遂げる必要があることを示している.第1 は投資から導入へ,そして第2 は導入から革新へ向かう移行である.下位中所得国の政府は,同じ投資牽引型の戦略を繰り返すという習慣を捨て,代わりに近代的な技術や成功している事業プロセスを世界全体から自国経済に導入することに努めなければならない.このことは,自国の経済の大部分を,財やサービスのグローバルに競争力のあるサプライヤーに作り変えることを必要とする.技術の導入を習得した上位中所得国は,革新へのシフト――グローバルな技術フロンティアからアイデアを取り入れるだけでなく,そのフロンティアを外に向けて押し広げ始めることもする――を加速することができる.そのためには経済的自由,社会的移動性,および政治的競争可能性を,今まで以上に強調しながら,企業,仕事,そしてエネルギー利用をもう一度再構築する必要がある.

転換も自動的には生じない.中所得から高所得の地位への迅速な移行を成し遂げた一握りの諸国は,強力な既存企業に規制を課すことによって企業活動を奨励し,価値のある成果を正当に評価することによって人材を開発し,そして,かつては有用であることを企図していた,目的にもはや適さなくなった政策や制度を,危機を契機として変革してきている.今日の中所得国も同じことを行う必要があるだろう.

目次

序文

謝辞

要旨

用語集

略号

概観:奇跡を起こす

要約

「豊かになるのは輝かしいこと」

罠は1 つか,あるいは2 つか?

投資,導入,そして革新――追加的かつ漸進的に

創造的破壊の経済学

適正に調整を行う

前途

参考文献

Part 1 中所得の水準における移行

Chapter 1 成長の減速

重要なメッセージ

はじめに

中所得国の成長

開発の中間段階を通じて発展を測定する

中所得国の成長は減速している

参考文献

スポットライト

Chapter 2 構造的な停滞

重要なメッセージ

はじめに

経済開発=構造変化

最初に導入を行い,次に革新を行う

参考文献

Chapter 3 余地は狭くなりつつある

重要なメッセージ

はじめに

国際貿易の分断化

債務の増加

気候変動対策

参考文献

Part 2 創造的破壊

Chapter 4 創造

重要なメッセージ

創造:経済成長の主導者であり,この段階では新規参入者と並んで,

既存者が価値を創造する

創造的破壊:30年にわたって分析は徐々に洗練されてきている

中所得国では,混乱を引き起こす小規模な新規参入企業があまりに少なく,そして

革新あるいはグローバルな技術の導入を行う大規模な既存企業もあまりにも少ない

成長し,グローバルな技術を導入し,そして革新をしようとしている

企業のインセンティブを政府はどのようにして窒息させるのか

創造的破壊を理解・規制するためにデータや診断手段を近代化する

――X線的手法からMRI的手法へ

参考文献

Chapter 5 保持

重要なメッセージ

保持が創造の敵対者であるのは,保持が破壊の敵対者でもあるからだ

経済進歩を推進するのは人材である,しかし社会的非移動性が

人材の開発を妨げている

エリート協定は社会的な非移動性を永続化させ現状を維持する

家父長制的なジェンダー規範が人口の大きな割合の人を阻害している

社会的非移動性と保持のコスト:創造を推進するエネルギーを抑制

参考文献

Chapter 6 破壊

重要なメッセージ

破壊:予想され,管理され,緩和されるべきである

気候とエネルギーの危機は再構築と再配分のきっかけになりうる

創造を伴わない破壊:取り残された国家になるリスク

参考文献

Part 3 奇跡を起こす

Chapter 7 既存企業に規制を課す

重要なメッセージ

既存企業による革新と支配力乱用を調整する

保持の力を弱めるために制度を更新する

既存企業が創造を強化するインセンティブ

既存企業による誤った行動を是正するための介入

参考文献

Chapter 8 有益な活動を正当に評価する

重要なメッセージ

価値のある活動を促進することによって前進

人々の経済的および社会的な移動性

企業によって付加される価値

経済活動による温室効果ガスの排出を削減

参考文献

Chapter 9 危機を好機として捉える

重要なメッセージ

危機を好機として捉え,時代後れの取り決めを打破する

脱炭素化をグローバル化する

低炭素インフラの拡充

経済成長と排出を切り離す

参考文献

索引

著者紹介

世界銀行

貧困削減と持続的成長の実現に向けて、途上国政府に対し融資、技術協力、政策助言を提供する国際開発金融機関。

訳者紹介

田村 勝省(たむら かつよし)

東京外国語大学および東京都立大学卒業.

旧東京銀行および関東学園大学教授を経て翻訳家.


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