更新日:2025/07/29
・ 序文、目次、概観
中所得国は時間と競争している.中所得国の多くは1990 年代以降,所得の低い状態から抜け出し,極度の貧困を根絶することに向けて,うまくやってきている.そしてこのことは,過去30 年間は発展にとって素晴らしい時期であったという認識につながっている.しかし,1 人当たり所得が1,100 – 14,000 ドルである100 カ国を超える諸国の望みは次世代の間に高所得の地位に到達することである.この目標に照らして評価すると,それらの諸国の実績は落胆させられる.1970 年代以降,中位の中所得国の1 人当たり所得は,アメリカ合衆国のレベルの10 分の1 以下で停滞している.住人の高齢化,保護主義の高まり,そしてエネルギー転換を加速することへの圧力の高まりなどによって,今日の中所得国はかつてないほどの難題に直面している.向かい風が強くなる中で,先進国になるためには,中所得国は奇跡を起こす必要があるだろう.
1950 年代以降における開発の経験と経済分析の進歩に依拠して,世界開発報告2024 は,開発途上国が「中所得国の罠」を回避するための経路を特定している.本報告書は,中所得の水準にある諸国にとって,1つではなく2つの移行を成し遂げる必要があることを示している.第1 は投資から導入へ,そして第2 は導入から革新へ向かう移行である.下位中所得国の政府は,同じ投資牽引型の戦略を繰り返すという習慣を捨て,代わりに近代的な技術や成功している事業プロセスを世界全体から自国経済に導入することに努めなければならない.このことは,自国の経済の大部分を,財やサービスのグローバルに競争力のあるサプライヤーに作り変えることを必要とする.技術の導入を習得した上位中所得国は,革新へのシフト――グローバルな技術フロンティアからアイデアを取り入れるだけでなく,そのフロンティアを外に向けて押し広げ始めることもする――を加速することができる.そのためには経済的自由,社会的移動性,および政治的競争可能性を,今まで以上に強調しながら,企業,仕事,そしてエネルギー利用をもう一度再構築する必要がある.
転換も自動的には生じない.中所得から高所得の地位への迅速な移行を成し遂げた一握りの諸国は,強力な既存企業に規制を課すことによって企業活動を奨励し,価値のある成果を正当に評価することによって人材を開発し,そして,かつては有用であることを企図していた,目的にもはや適さなくなった政策や制度を,危機を契機として変革してきている.今日の中所得国も同じことを行う必要があるだろう.