世界労働レポート 2010 1つの危機から次の危機へ?

更新日:2011/07/31

世界労働レポート 2010

1つの危機から次の危機へ?

国際労働機関 著

田村勝省 訳

2011年7月 発行

定価 2,500円

ISBN 978-4-903532-75-2

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・  序文,目次

概要

 2008 年のリーマンショックの金融危機から各国経済の回復は、全般に弱々しくかつ不均一である。その結果、執拗な失業が残る国々があり、その他の国でも雇用の不確実性が強く、対策に苦慮している。特に金融危機の発端となった国々では、金融が機能不全に陥っており、企業の投資に悪影響を与え、雇用の回復を一層遅らせている。本レポートでは先進国の雇用が危機以前の水準に戻るのは2015 年になりそうであるとしている。

 労働市場の不況が長引けば長引くほど新規の雇用を確保しようとする求職者の困難は大きくなる。データのある35 カ国では求職者のほぼ40%は1年以上にわたって失業状態にあり、そのため、働く意気阻喪、自尊心の喪失などから精神的な健康問題などについて大きなリスクを抱えている。特に重要なのは若年層の間での不釣り合いに多い失業である。彼らは、就業できたとしても不安定な職で、彼らのスキルに一致しないことがしばしばである。労働市場があまりにも長く停滞しているため、多くの失業者は勤労意欲を喪失して労働市場から完全に退出している。約21 カ国で2009 年末までに就職活動を停止した求職者は400 万人以上に達している。

 このように先行きの展望が悪化した第1の理由は、回復の促進に決定的に重要であった財政面での刺激措置が停止されたことである。大きな財政赤字を抱えた国々では緊縮に転換しており、雇用の危機を長期化させるおそれがある。第2のより根本的な要因として危機の根本原因に対して適正な取り組みがなされていない点である。つまり金融対策である。しかし、危機からの持続可能な出口は存在する。うまく設計された労働市場政策、ワーク・シェアリング、若年層に絞った対策、労働スキルの確実な習得などが世界の各地で成功している例を示す。

 経済成長そのものは社会の結束にそれほど重要ではない。それよりもILO の提唱する「グローバル・ジョブ協定」の雇用重視の政策措置がより重要である。

 本レポートでは危機をバランスのとれた世界経済を構築するよい機会として利用すべ
きであるとして、方策を論じている.

目次

序文

第1章 世界の労働展望:雇用に満ちた回復の挑戦

主な研究成果

はじめに

A. 用のスナップショット

B. 雇用の展望

C. 良質で仕事に満ちた持続可能な回復:前進の方法

補遺A. 回復の種類および所得水準別の国分類

補遺B. 雇用に対する金融危機のインパクト:実証分析

参考文献

第2章 世界の社会環境:政策にとってのトレンドと挑戦課題

主な研究成果

はじめに

A. 危機勃発以降の社会環境

B. 社会環境の変化を説明する:失業と所得不平等の役割

政策的配慮

補遺A. 社会不安の決定要因を推計する

参考文献

第3章 財政制約下における雇用回復

主な研究成果

はじめに

A.財政緊縮へのシフト

B.危機下における財政政策の雇用効果についてわかっていること

C.財政緊縮対設計の良い出口戦略

政策的配慮

参考文献

第4章 世界の成長をリバランスする:所得主導型戦略の役割

主な研究成果

はじめに

A.黒字国:成長の源泉をリバランスするという挑戦課題

B.グローバルの不均衡と成長の回復に取り組むための政策オプション

政策的配慮

補遺A 赤字国と黒字国のリスト

補遺B リバランス政策を評価する:モデル構築作業

参考文献

第5章 より多くのより良い雇用のために金融を改革する

主な研究成果

はじめに

A.金融市場にとって多難な回復

B.金融市場の長期的な安定性のための改革オプション

C.ファイナスの将来:4 つのシナリオ

政策的配慮

参考文献

国際労働科学研究所最近の出版物

著者紹介

 国際労働機関(ILO:The International Labour Organization)

 国際労働機関(ILO : International Labor Organization)は1919 年に,社会正義の促進,そして,世界的な平和とその持続を目的として設立された.創立50 周年にあたる1969 年にはノーベル平和賞を受賞している.この機関の事務部門,事業本部,調査研究センター及び出版部門の本拠は,ジュネーブにある国際労働事務局である.その管理運営は,40 以上の国にある地域総局及び現地事務所に分散されている.国際労働機関は国連に加盟する機関では独特の三者(政府,使用者,労働者)構成を採用しており,理事会にはこの三者の代表も含まれている.これは,政策策定や計画立案時には,経済を動かす社会的パートナーである労使代表も政府と等しく発言する権利をもっている,という理念に基づくものである.上記の三つの団体は,ILO が後援する各地域での活動や会合に参加するだけでなく,国際労働総会にも出席している.この国際労働総会は,毎年開催されており,世界の労働問題,社会問題を討議する国際フォーラムでもある.

 国際労働機関は長い年月にわたり,労働組合,労働者,社会政策,雇用条件,社会保障,企業間の交渉や労働行政などに関する問題に,参加各国の様々な条件を考慮しつつ取り組んできている.

 国際労働機関は,40 カ国以上からなる地域総局や労使団体間の情報交換を通して,助言や技術的な支援を行っている.この支援活動には,労働者の権利と企業間交渉に対する助言,雇用の促進,小規模な企業の発展を目的とした教育,計画の策定などが含まれる.またさらに,社会保証や労働条件,労働環境の安全性に関するアドバイス,労働に関する統計の比較と公表,労働者教育も行っている.

訳者紹介

田村 勝省(たむら かつよし)

1949 年生まれ.東京外国語大学および東京都立大学卒業.旧東京銀行で調査部,ロンドン支店,ニューヨーク支店などを経て,現在は関東学園大学教授,翻訳家.

訳書
『アメリカ大恐慌(上下)』(NTT 出版,2008 年)
『ウォール街の崩壊の裏で何が起こっていたのか? 』(一灯舎,2009 年)
『世界開発報告2010 開発と気候変動 』[共訳](一灯舎,2010 年)
『アメリカ連邦準備制度の内幕』(一灯舎,2010 年)
『シュンペーター伝 革新による経済発展の預言者の生涯』(一灯舎,2010 年)
『ユーロ  統一通貨誕生への道のり、その歴史的・政治的背景と展望』(一灯舎,2011 年)


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