世界開発報告2012 ジェンダーの平等と開発

更新日:2012/09/30

世界開発報告2012

ジェンダーの平等と開発

世界銀行 編著

田村勝省/穴水由紀子 訳

2012年9月 発行

定価 4,200円

新 : ISBN 978-4-907600-18-1
旧 : ISBN 978-4-903532-87-5

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・  『世界開発報告2012』の主要なメッセージ,目次

概要

世界開発報告2012は,「ジェンダーの平等と開発」と題して男女格差の経済・社会問題を広くとりあげており,これは開発途上国だけでなく日本などの先進諸国の問題としても大変重要であるとしている.

世界的に人口の少子化と高齢化がすすむと,数十年後には労働者不足,そしてより少ない若年労働者がより多くの高齢者の福祉をサポートしなければならないことが明白であり,そこで重要になるのが女性の労働参加である.たとえばヨーロッパでは,2040年までに2400万人の不足が予想されるが,女性の労働参加がより一層進むと不足は300万人にまで減少する.日本でも同様の事態が予想されることから,対策が望まれる.

途上国では最近の25年間で女性の生活や社会的地位は劇的に改善されている.多くの国で,出産や幼児の健康の改善,男児に対する偏見と出産における偏重から平等への移行,小・中学校及び高等学校以上の教育へ進む女子の増加,家庭内での財産権や結婚における女性の権利の保護,家庭内暴力からの解放が進んでいる.しかし,女性は出産や育児,高齢者の介護に追われ,家庭内労働や生産性の低い農業に従事する傾向にあり,その結果,所得が少なく弱い立場に追い込まれている.しかし将来は,企業のグローバル化,小売りや情報産業といったサービス産業の発展によって女性の就業が増加し,経済・政治への女性の参加も増えるであろう.

政策は,ジェンダー格差の基本的な決定要因に焦点を当てる必要がある.出産適齢期に加えて乳児期や幼児期における女性の超過死亡率などの優先分野については,特に清潔な水や衛生設備および妊産婦ケアなどの提供を改善することが最重要である.所得や生産性におけるジェンダー格差などといったそれ以外の優先分野については,政策は市場や制度の機能に由来し,進展を阻害している複数の制約に取り組む必要がある.政策立案者はそのような制約に優先順位を付け,順番に対処する必要があるだろう.

ジェンダー不平等を削減するには国内政策が中心になるものの,開発機関等のパートナーは,情報の提供や学習の改善を通じて証拠に基づく公的措置を支援することに焦点を当てるべきである.それには,資金供与の増加,革新や学習を促進する努力,パートナーシップの拡大を組み合わせることが必要であろう.資金供与は特に女性の超過死亡率と教育におけるジェンダー格差の削減に取り組んでいる最貧国の支援に振り向けられるべきである.また,パートナーシップには民間部門,開発機関,NGOといった市民社会組織などを関与させるべきである.

目次

序文

謝辞

略語およびデータ注

『世界開発報告2012』の主要なメッセージ

概観

ジェンダー平等は開発にとってなぜ重要なのか?

本報告書は何を目指しているか? 

ジェンダー平等に関してどの分野で最大の進展があったか?

ジェンダー不平等が執拗なのはどの分野なのか,そしてその理由は何か?

何をなすべきか?

ジェンダー平等に向けた改革の政治経済学

ジェンダー平等化のための世界的なアジェンダ

はじめに:本報告書へのガイド

ジェンダー平等と開発:結び付きがなぜ重要なのか?

本報告書は何をするのか?

本報告書をナビゲートする:道路地図

PART Ⅰ ジェンダー平等のこれまでの進展を見る

1 進展の波

時代は変わりつつあるのか?

女性の権利にかかわる世界的なコンセンサスの高まり

多くの領域で女性にとってより良い成果が生まれている

変化が変化を生む

2 ジェンダー不平等の執拗さ

著しく不利な状況下にある人々

経済発展にもかかわらず格差が残存している「執拗な」分野

逆戻り

「執拗な」は「より執拗な」になる

スプレッド1 女性のエンパワメントへの道:すべての道はローマに通じるのか?

PART Ⅱ 進展の原動力となってきたものは何か? 妨げているものは何か?

枠組みについて

枠組みを適用する

3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか?

人的資本形成の重要性

教育

保健

技術的補遺3.1 出生時に行方不明の女児と出生後の女性の超過死亡の算出

章のまとめ:教育や保健でのジェンダー差の縮小について,世帯,市場,制度の

いずれかの障壁をひとつ撤廃するだけで十分に良い結果が得られる場合は,飛躍的

に進歩してきた.複数の障壁を同時に撤廃しなければならない,またはたったひと

つの入口がネックとなっている場合は,進歩のスピードはもっと遅い

4 女性のエージェンシーを促進する

女性のエージェンシーは重要である

経済成長は女性のエージェンシーを促進するが,その影響は限定的である

権利とその効果的な実行によって,女性の選択と発言力が形作られる

社会規範は女性のエージェンシーの向上を妨げる,あるいは促進する

女性の集団的エージェンシーは,制度,市場,社会規範を形作る

章のまとめ:女性がエージェンシー(自律性)を行使する能力は,男性と比べ依然として弱い  168

スプレッド2 一家の稼ぎ手の減少:21 世紀の男たち

5 職務におけるジェンダー差とその重大性

生産性と賃金におけるジェンダー差を理解する

ジェンダー間職務分離を説明するものは何か? 概観

ジェンダー,時間の使途,職務分離

生産用投入資源へのアクセスにおけるジェンダー差と職務分離

市場と制度の失敗の“集合”が及ぼすジェンダーへの影響

生産性の罠から脱出する:どのように,なぜやるのか?

章のまとめ:ジェンダー間職務分離が持続しているため,女性は低生産性・

低賃金の仕事から抜け出せない.

6 グローバル化がジェンダー平等に与える影響:何が起き,何が必要なのか

世界はますます統合に向かっている――最近のトレンドと事実

貿易開放とICT(情報通信技術)が,女性の経済機会へのアクセスを向上させてきた

適応するか,チャンスを逃すか

グローバル化は平等主義的な男女の役割と規範の促進もする

古い問題,新たなリスク

コップの水はまだ半分しかない? それとも,もう半分まで満たされた?

解釈の相違と公的措置の必要性

章のまとめ:グローバル化は,ジェンダー平等の拡大に寄与する可能性がある

スプレッド3 年齢が変わり,身体が変わり,時間が変わる――思春期の少年少女

PART Ⅲ 公的措置の役割と潜在力

適切な政策を選択する

有効な政策の実施

行動のための世界的なアジェンダ

7 ジェンダー平等のための公的措置

健康や教育における格差を削減する政策

経済機会を改善するための政策

女性のエージェンシーを改善するための政策

思春期の若者や若い成人にとって,世代を超えたジェンダー不平等の再生産を回避する

ジェンダー・スマートな政策を策定する:「ジェンダー主流化」に焦点を当てる

求む:より良い証拠

8 ジェンダー改革の政治経済学

非公式制度――変化の原動力としての社会的ネットワーク

包容的な市場

公式な制度や政策にジェンダーを持ち込む

機会の窓をとらえる

変化への経路

9 ジェンダー平等化の推進に向けた世界的アジェンダ

世界的アジェンダの論拠と焦点

何をどうすべきか?

参考文献についての注

背景論文・メモ

参考文献

主要指標2012

主要世界開発指標2012

索引

編著者紹介

世界銀行

http://www.worldbank.org/

訳者紹介

田村 勝省(たむら かつよし)

1949 年生まれ.東京外国語大学および東京都立大学卒業.旧東京銀行で調査部,
ロンドン支店,ニューヨーク支店などを経て,現在は関東学園大学教授,翻訳家.
訳書
『アメリカ大恐慌(上下)』(NTT 出版,2008 年)
『アメリカ連邦準備制度の内幕』(一灯舎,2010 年)
『シュンペーター伝 革新による経済発展の預言者の生涯』(一灯舎,2010 年)
『ユーロ  統一通貨誕生への道のり、その歴史的・政治的背景と展望』(一灯舎,2011 年)
『世界開発報告2011 紛争,安全保障と開発 』(一灯舎,2012 年)
『世界雇用情勢2012 雇用危機の深刻化を予防 』(一灯舎,2012 年)
『ユーロの崩壊 ヨーロッパの金融失敗からの脱出ルート』(一灯舎,2012 年)

穴水 由紀子(あなみず ゆきこ)

東京女子大学文理学部社会学科卒業,エネルギー関連企業勤務を経て,
英国バース大学通訳翻訳修士課程修了.現在は翻訳業に専念.

翻訳協力
『宇宙から恐怖がやってくる! 地球滅亡9つのシナリオ』(NHK 出版,2010 年)
『生命の跳躍 進化の10 大発明』(みすず書房,2010 年)
『ビジュアル版 科学の世界』(東洋書林,2011 年)
『パンドラの種 農耕文明が開け放った災いの箱』(化学同人,2012 年)


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