世界開発報告2013 仕事

更新日:2014/01/28

世界開発報告2013

仕事

世界銀行 編著

田村勝省 訳

2014年2月 発行予定

定価 4,200円+税

ISBN 978-4-907600-03-7

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・  序文,目次

概要

仕事は,経済の成長につれて所得や社会保障の充実をもたらすだけでなく,開発の推進力でもある.人々は働くことで貧困から抜け出し,仕事で経済力をつけた女性が子供への投資を増やすことによって貧困が削減される.また,労働者の仕事のスキルが向上するに従って,より生産的な仕事が創出され,非生産的な仕事が消滅することで,トータルでの生産効率が高まる.社会が発展するのは,仕事が異なる民族や社会的背景を持つ人々を結びつけ,対立を協調に変えるときである.従って,仕事は単に経済成長の副産物にとどまるものではない.仕事は変革的な効果をもつ.それは,すなわち生活の糧であり,行動であり,人格そのものにかかわる.

若年層の高い失業率と仕事に対する満たされない期待は,国内の政治的な緊張の懸念材料となる.しかし,農業と自営業が一般的であり,社会保障がそれほど充実していない多くの途上国では,失業率そのものは低いことが多い.これらの国では,成長が仕事を伴わないということではないが,貧困者の大半は,長時間働いても生計をたてていくことが出来ないような仕事に従事している.基本的人権の侵害も珍しくはない.従って仕事の数だけが問題なのではなく,高い開発効果をもたらす仕事が必要とされているのである.

こうした問題に直面している政策当局者は,厳しい課題に迫られている.本報告書では,以下の質問を提起し,議論している.1:各国は経済成長中心の開発戦略をとるべきか,それとも,仕事(雇用)の方を重視すべきか,2:起業家精神は,特に途上国の多数の零細企業経営者の中から育成可能なのか,それとも起業家とは持って生まれた資質なのか,3:教育や訓練への投資は,就職するために必要か,それとも技術は職場で身につけられるものなのか,4:深刻な危機や構造の変化が起きたときには,労働者だけでなく,仕事も保護されるべきなのか,5:ある国の仕事の創出政策が他の国の仕事を犠牲にするリスクはどれほどあるのか?

「世界開発報告2013 : 仕事」は,仕事を単に派生的な労働需要と見るのではなく,開発の推進力として捉え,正規の賃金雇用だけでなく,すべての仕事の種類について考察することにより,こうした困難な諸問題に答えている.本報告書は,各種セクターを横断的に捉えた枠組みを提供し,さらに過去の事例から最善と思われる政策対応は,開発の度合い,資源の依存度,人口動態,構造の整備状況に応じて,国ごとに異なることを示している.いずれの場合も,まず政策上のファンダメンタルズを固めることが重要となることは間違いない.それは,世界の仕事の多くを創出する民間セクターの活性化を可能にするからだ.労働政策も役に立つが,一般に考えられているほどの重要性はない.小規模農業の活性化から,機能的な都市の育成,世界市場への連結にいたる開発政策こそが成功の鍵を握っているのである.

目次

表紙について

序文

謝辞

略語およびデータ注

略語

データ注

概観 仕事を中心に据える

仕事の必要性

仕事を通じて実現する開発

仕事の評価

多岐に及ぶが互いに関連する仕事のアジェンダ

仕事というレンズを通した政策

仕事を中心に据えたが,データはどこにあるのか

質問 伝統的な見解が正しいときはいつか?

参考文献

1. 仕事をめぐる挑戦

仕事,しかし必ずしも給与を伴わない

若年層の増加,高齢化社会,移民国家

都市,賃金,女性

仕事は驚くような形で変化している

繁栄しているが,所得の分配は変化している

民間セクターの役割

世界的な規模の脆弱性

質問 仕事とは何か?

参考文献

Part Ⅰ 仕事は全てを転換するものである

2. 仕事と生活水準

仕事は物質的な福祉を改善する

仕事は単なる所得以上のもの

仕事と生活満足度

質問 成長戦略か仕事戦略か?

参考文献

3. 仕事と生産性

雇用なき成長ではなく雇用の乱高下

ほとんどの仕事は非常に小さい農場や企業にある

農場では技術進歩はまちまち

企業の間では「大山鳴動してネズミ一匹」

企業家精神は育成できるか?

参考文献

4. 仕事と社会的一体感

仕事は社会的緊張を管理するのに役立つ

仕事(あるいはその欠如)は社会的相互作用を形作ることができる

質問 公共政策は社会的一体感に貢献できるか?

参考文献

Part Ⅱ 開発にとって良い仕事とは何なのか?

5. 仕事を評価する

基盤としての権利

個人と社会に対する仕事の価値

仕事からの波及効果

仕事からの開発利益は定量化できるか?

スキルと仕事――どちらが先か?

参考文献

6. 仕事のさまざまな課題

農業国

紛争の影響を受けた国

都市化する国

資源の豊富な国

小さな島嶼国

若年失業率の高い国

フォーマル化が進む国

高齢化社会

質問 対象を絞った投資環境?

参考文献

7. 結び付いている仕事の課題

労働者の移住

仕事の移動

質問 仕事を巡って競争する?

参考文献

Part Ⅲ 仕事のレンズを通してみた政策

8. 労働政策再論

労働規則:「高台現象」効果

集団的代表制:新しい形の発言権

積極的労働市場プログラム:ある程度有効

社会保険:適用範囲拡大のという課題

質問 労働者を保護するのか,それとも仕事を保護するのか?

参考文献

9. 労働政策を超えて

ファンダメンタルズを確立する

仕事に対する政策の優先課題を設定する

仕事の課題も政策の優先課題もともに千差万別

仕事の課題の結び付き:仕事のための世界的なパートナーシップ

仕事は舞台の中央にきているが,数字はどこにあるのか?

質問 労働の再配分をどうやって加速化するか?

参考文献

付録

用語解説

参考文献についての注

背景論文・メモ

主要指標

索引

著者紹介

世界銀行(WordBank)

http://www.worldbank.org/ja/country/japan

訳者紹介

田村 勝省(たむら かつよし)

1949 年生まれ.東京外国語大学および東京都立大学卒業.旧東京銀行で調査部,ロンドン支店,ニューヨーク支店などを経て,現在は関東学園大学教授,翻訳家.

訳書
『アメリカ大恐慌(上下)』(NTT 出版,2008 年)
『シュンペーター伝 革新による経済発展の預言者の生涯』(一灯舎,2010 年)
『ユーロ  統一通貨誕生への道のり、その歴史的・政治的背景と展望』(一灯舎,2011 年)
『ユーロの崩壊 ヨーロッパの金融失敗からの脱出ルート』(一灯舎,2012 年)
『世界開発報告2012 ジェンダーの平等と開発 』(一灯舎,2013 年)
『世界給与・賃金レポート2012/2013 給与・賃金と公平な成長 』(一灯舎,2013 年)


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