更新日:2014/01/28
・ 序文,目次
仕事は,経済の成長につれて所得や社会保障の充実をもたらすだけでなく,開発の推進力でもある.人々は働くことで貧困から抜け出し,仕事で経済力をつけた女性が子供への投資を増やすことによって貧困が削減される.また,労働者の仕事のスキルが向上するに従って,より生産的な仕事が創出され,非生産的な仕事が消滅することで,トータルでの生産効率が高まる.社会が発展するのは,仕事が異なる民族や社会的背景を持つ人々を結びつけ,対立を協調に変えるときである.従って,仕事は単に経済成長の副産物にとどまるものではない.仕事は変革的な効果をもつ.それは,すなわち生活の糧であり,行動であり,人格そのものにかかわる.
若年層の高い失業率と仕事に対する満たされない期待は,国内の政治的な緊張の懸念材料となる.しかし,農業と自営業が一般的であり,社会保障がそれほど充実していない多くの途上国では,失業率そのものは低いことが多い.これらの国では,成長が仕事を伴わないということではないが,貧困者の大半は,長時間働いても生計をたてていくことが出来ないような仕事に従事している.基本的人権の侵害も珍しくはない.従って仕事の数だけが問題なのではなく,高い開発効果をもたらす仕事が必要とされているのである.
こうした問題に直面している政策当局者は,厳しい課題に迫られている.本報告書では,以下の質問を提起し,議論している.1:各国は経済成長中心の開発戦略をとるべきか,それとも,仕事(雇用)の方を重視すべきか,2:起業家精神は,特に途上国の多数の零細企業経営者の中から育成可能なのか,それとも起業家とは持って生まれた資質なのか,3:教育や訓練への投資は,就職するために必要か,それとも技術は職場で身につけられるものなのか,4:深刻な危機や構造の変化が起きたときには,労働者だけでなく,仕事も保護されるべきなのか,5:ある国の仕事の創出政策が他の国の仕事を犠牲にするリスクはどれほどあるのか?
「世界開発報告2013 : 仕事」は,仕事を単に派生的な労働需要と見るのではなく,開発の推進力として捉え,正規の賃金雇用だけでなく,すべての仕事の種類について考察することにより,こうした困難な諸問題に答えている.本報告書は,各種セクターを横断的に捉えた枠組みを提供し,さらに過去の事例から最善と思われる政策対応は,開発の度合い,資源の依存度,人口動態,構造の整備状況に応じて,国ごとに異なることを示している.いずれの場合も,まず政策上のファンダメンタルズを固めることが重要となることは間違いない.それは,世界の仕事の多くを創出する民間セクターの活性化を可能にするからだ.労働政策も役に立つが,一般に考えられているほどの重要性はない.小規模農業の活性化から,機能的な都市の育成,世界市場への連結にいたる開発政策こそが成功の鍵を握っているのである.