世界開発報告2018 教育と学び――可能性を実現するために

更新日:2018/12/17

世界開発報告2018

教育と学び――可能性を実現するために

世界銀行 編著

田村 勝省 訳

2018年12月 発行

定価 6,000円

ISBN:978-4-907600-60-0

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・  序文、目次

概要

世界銀行の『世界開発報告』(WDR)では毎年,グローバルな開発にとって中心的な重要性を有する話題を特集している.『世界開発報告2018 教育と学び――可能性を実現するために』は,そのすべてを教育問題に割いており,これはまったく初めてのことである.また,現在において教育をテーマとすることは時宜を得ている:教育は長らく人間の福祉にとって極めて重要であったが,経済および社会の変化が急激な時期にあってはなおさらのことである.子供たちや若者を将来に向けて備えさせる最善の方法は,彼らの学習(学び)を,教育を促進するあらゆる努力の中心に据えることである.

2018年の『 世界開発報告』は次の4つの主題を探求している:

第1に,教育が約束すること:教育は貧困を根絶し,繁栄の共有を促進するための強力な手段である.しかし,その潜在力を十分に発揮するためには,教育制度の内外両方においてより優れた政策が必要とされている.

第2に,学習に光を当てる必要がある:教育が普及したにもかかわらず,最近の学習評価から,世界中の多くの若者――とりわけ貧しい,あるいは不遇な人々――は,一生涯にわたって必要とされる基盤的スキルさえ身に付けずに学校に別れを告げていることが明らかになっている.このことと同時に,国際的に比較可能な学習評価が示すところでは,多くの中所得国のスキルは,これらの国が目標にしている諸国と比べて著しい後れを取っている.さらに,このような欠陥は,あまりにも多くの場合に表立っていない.それゆえ,この学習危機に対処するために第一歩を踏み出すにあたっては,生徒の学習をより適切に評価することによって現状に光を当てることが必須である.

第3に,全学習者のために学校を機能させるにはどうすればよいか:脳科学・教授法の革新・学校運営などの分野に関する研究によって,学習を促進する介入策が特定されてきている.このような介入策が学習の促進に結び付くためには,学習者の準備が整っていること,教員がスキルとモチベーションの両方をもっていること,そしてこれら以外の投入が教員と学習者の間の関係を支援すること,を確実に実施しなければならない.

第4に,学習に向けて制度を機能させるにはどのようにすればよいか:教育制度を通じて学習を達成するためには,有効な介入策の単なる規模拡大を超えるものが必要である.各国は技術的および政治的な障壁も克服しなければならない.この障壁には,利害関係者を動員し進展を追跡するために人目を引く指標を活用する,学習のための連合を構築する,そして改革にむけて適応的アプローチを採用することによって取り組む必要がある.

目次

序文

謝辞

略号

概観 教育と学び ――可能性を実現するために

学習危機の3 つの側面

教育が約束することを実現する方法:3 つの政策対応

教育が約束することを実現するために学ぶ

PART Ⅰ 教育が約束すること

1 学校における教育,学び,そして教育が約束すること

自由としての教育

教育は個人の自由を改善する

教育は社会の全員のためになる

学習,そして教育が約束すること

PART Ⅱ 学習危機

2 学校教育の急拡大――そして取り残された人々

ほとんどの子供たちは基礎教育へのアクセスを有している

残存している学校教育格差のほとんどは,貧困・ジェンダー・民族性・身体障害・場所によって説明できる

貧しい親に対して,学校教育は二律背反の選択を要求する

スポットライト1 学習の生物学

3 学習危機の諸側面

あまりにも大勢に対して学習が行われていない

貧しい子供たちの学習は最少,このことで最大の痛手をこうむるのは彼ら自身である

何が学習危機をもたらしているのか?

スポットライト2 貧困は生物学的な発達を阻害して学習の土台を崩す

4 学習を真剣に考えるためにその測定から始める

学習危機はしばしば隠されている――しかし測定することで目に見えるようになる

学習のための指標が行動の指針となる

学習に関する指標は行動に拍車をかける

国が必要としていることに基づいて学習指標を選択する

学習指標は教育の視野を狭めるだろうか?

効果的な学習測定のための6 つのヒント

スポットライト3 スキルの多次元性

PART Ⅲ 革新,そして学習についての証拠

スポットライト4 学習について学ぶ

5 学ぶ側に準備と意欲がなければ学習はない

幼少期に投資して,子供たちを就学に向けて準備させる

需要サイドの支援を提供すれば子供たちを就学させられるが,必ずしも学習させられるとは限らない

補習教育は学習者を継続的な教育や訓練に向けて準備させることができる

6 教員のスキルと意欲はともに重要(ただし,そうではないかの如く

運営されている教育制度が多い)

ほとんどの教員研修は有効ではないが,機能するアプローチもある

生徒のレベルに合わせた授業をするよう教員を支援することが有効である

教員の意欲とインセンティブはたとえ投入がほとんどない場合でも効果をもたらす

7 他のすべてのことは教員と学習者の相互作用の強化に向けられるべき

技術的な介入策は学習を向上させる――ただし,それが教員と学習者の関係を改善することが条件となる

他の投入は学習者を学校に来させるが,学習を促進するのはそれが授業や学習を目的としている場合だけ

学校の運営・統治は極めて重要であり,コミュニティを関与させることはインセンティブ問題や情報の失敗を克服するのに役立つ――ただし,コミュニティにその能力がある場合に限られる

8 スキル訓練を仕事と結び付けることによって基盤を構築

職場訓練は若者がスキルを開発するのを助けることができるが,その恩恵を受けている人はほとんどいない

短期の職業訓練は機会を提供しているが,ほとんどのプログラムは効果を発揮できていない

TVET は若者を仕事に向けて準備させることはできるが,

早期のTVET への振り分けはキャリアの向上を限定することがある

成功している職業訓練プログラムが共有している特徴

スポットライト5 技術は仕事の世界を変えつつある:それは学習にとって何を意味するのか?

PART Ⅳ 学習のために制度を大規模に機能させる

9 教育制度は学習との整合性を欠いている

不整合性と非一貫性は学習を妨害する

技術的な複雑さが,教育制度を学習に整合的にするのを困難にしている

スポットライト6 支出のさらなる増加,それとも支出のよりいっそうの適正化――ないしはその両方?

10 不健全な政治が不整合性の原因

不健全な政治は教育制度における不整合性を悪化させ得る

多数の主体と利害:政治サイクルの各ステップで制度を整合性から引き離す

低説明責任と低学習の均衡に陥っている

11 低学習の罠から脱却する方法

情報の改善

連合を構築しインセンティブを強化する

革新と機敏性を促進する

海外主体は学習改善に向けたイニシアティブをどのように支援できるか?

索引

著者紹介

世界銀行

世界銀行ホームページ

訳者紹介

田村 勝省(たむら かつよし)

東京外国語大学および東京都立大学卒業.

旧東京銀行および関東学園大学教授を経て翻訳家.


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