世界開発報告 2015

更新日:2015/09/29

世界開発報告 2015

心・社会・行動

世界銀行 編著

田村 勝省 訳

2015年10月 発行

定価 5,000円

ISBN978-4-907600-34-1

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・  はじめに,目次

概要

開発にかかわる経済学や政策は再考の時期にきている.過去20 ー 30 年間に,自然科学と社会科学の多種多様な分野における研究のおかげで,人々の思考や意思決定の方法に関して驚くような洞察が得られている.第1 世代の開発政策は人間は顧慮的に独立して意思決定を行うという前提,および人々の選好は一貫していて自己利益に適っているという土台の上に築かれていた.しかし,最近の研究が示すところによれば,意思決定がそのように行われることは稀である.人々は自動的に考える:決定に際しては,努力せずとも心に浮かぶことに通常は依拠している.人は社会から影響を受けて考える:社会規範が多くの行動の指針となっており,多くの人々は他の人が応分のことをやっている限り,協力したいと思っている.さらに,人々はメンタル・モデルで考える:何を認識するかやそれをどう解釈するかは,社会や共有されている歴史から引き出された概念や世界観に左右されている.

『世界開発報告2015』では,このような洞察が開発政策にどのように当てはまるかについて,具体的に検討している.人間の行動に関してさまざまな見方をもっていることは,多くの分野において開発目標の達成に資する.それには早期児童開発や家計ファイナンス,生産性,健康,気候変動などが含まれる.また,人間行動にかかわるより微妙な見方が,介入策にとってどのようにして新たなツールになるかも示してみたい.意思決定が行われる状況にたとえ些細でも調整を加えること,社会的選好の理解に基づく介入策を設計すること,そして人々を新たな経験や思考方法にさらすことなどができれば,それは人々の生活を改善するだろう.

本報告書は開発の仕事のための刺激的な新しい道を切り開いている.そして,貧困というのは単に物質的な収奪の状態ではなく,認知資源に対する「税金」でもあり,したがって意思決定の質に影響を与えることを示している.また,次の点も強調されている.それは,専門家や政策当局も含め,すべての人間は思考について心理的・社会的な影響力を受けており,開発機関は自分たちの熟慮や意思決定を改善するための手続きから利益を享受することができるということだ.政策の設計や実施に関してさらなる発見,学習,そして適応が必要であることが示されている.開発経済学にかかわる新しいアプローチは極めて有望である.その適用範囲は膨大である.本報告書は開発コミュニティにとって重要な新しい課題をもたらすものである.

目次

序文

謝辞

略号

概観 人間の意思決定と開発政策

人間の意思決定にかかわる3 原則

政策に関する心理的・社会的な視点

開発専門家の仕事

参考文献

PART 1 経済開発のための人間行動に関する拡張的理解:概念的な枠組み

はじめに

1 自動的に考える

2 つの思考法

情報評価におけるバイアス

価値評価におけるバイアス

選択設計

意図と行為の乖離を克服する

結論

参考文献

2. 社会から影響を受けて考える

社会的選好とそのことに含まれる意味

社会的ネットワークが個人の意思決定に及ぼす影響力

個人の意思決定における社会規範の役割

結論

参考文献

スポットライト1 腐敗が普通になっている場合

3 メンタル・モデルで考える

メンタル・モデルはどこから生じるのか,なぜ重要なのか

メンタル・モデルはどのように機能し,われわれはそれをどのように使うのか

メンタル・モデルの起源

アイデンティティが顕著化されることの効果

メンタル・モデルの耐久力

メンタル・モデルと意思決定が行われる状況との一致を改善するための政策

結論

参考文献

スポットライト2 娯楽教育

PART 2 政策に関する心理的・社会的な視点

4 貧困

貧困は認知資源を消耗する

貧困は貧しいフレームを作る

貧困を形成している社会的環境はそれ自身の負荷を生み出し得る

反貧困の政策やプログラムの設計から得られる結論

先行きを展望する

参考文献

スポットライト3 われわれは貧困を形成している状況をどれほど十分に

理解しているか?

5 早期児童開発

富裕層の子供と貧困層の子供とでは就学への準備が大きく異なる

学校で成功するためには,子供たちには多数の認知および認知とは無関係のスキルが必要である

幼年期や少年期における貧困は早期の脳発達を阻害し得る

親は子供の学習能力開発を支援する点で決定的に重要である

親の信念や養育の実践は階層ごとに異なり,子供の発育成果もさまざまである

親の能力に焦点を当てて,それを改善する介入策を設計する

結論

参考文献

6 家計のファイナンス

金融における人間的な意思決定者

家計の金融に関する決定の質を改善するための政策

結論

参照文献

7 生産性

従業員の間の努力を改善する

生産性の高い労働者を採用する

小企業の業績を改善する

農業における技術採用を増やす

政策設計でこのような洞察を利用する

参考文献

スポットライト4 職場を理解するために民族誌学を使う

8 健康

健康に関する行動を変えるための心理的・社会的なアプローチ

完遂と習慣形成を改善する

他人のために適切な処置をするよう医療従事者をはげます

結論

参考文献

9 気候変動

認知に対する障害は気候変動に関する行動を阻害する

保全を動機付けるための心理的・社会的な洞察

結論

参考文献

スポットライト5 コロンビアで水保全を推進する

PART 3 開発専門家の仕事を改善する

10 開発専門家のバイアス

複雑性

確証バイアス

埋没費用バイアス

前後の状況が判断や意思決定に及ぼす影響

結論

参考文献

11 適応的設計と適応的介入策

心理的・社会的な障害を診断する

介入策を設計する

実施中に実験する

結論:学習と適応

参考文献

スポットライト6 なぜ政府は個人の選択を左右するのか?

索引

著者紹介

世界銀行(World Bank)

訳者紹介

田村 勝省(たむら かつよし)

東京外国語大学および東京都立大学卒業.
旧東京銀行および関東学園大学教授を経て翻訳家.


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